新潟の「水・土・里(みどり)」を訪ねて 第1回 前編

news

第1回 農業用ダムの役割と柏崎土地改良区

Contents

1. 前編:農業用ダムの役割
・農業用ダムとは
・後谷ダム、栃ヶ原ダム、市野新田ダムの概要
・農業用ダムと渇水対応について
・ 農業用ダムを活用した洪水調整について

 

2. 後編:理事長にお聞きしました 「柏崎土地改良区」編
・土地改良区の概要
・土地改良区の取組みについて
・これが「イチオシ!」

前編:農業用ダムの役割

(1) 農業用ダムとは

農業用ダムは「ため池」や「堰」と同じ貯水施設で、雪解け水又は雨水をためておいて、雨が降らない渇水時に田、畑に水を供給するための施設です。

近年では頻発かつ局地的な豪雨時など緊急時の洪水調節にも活用される場合もあり、大切な農地や住宅等を守る役割も兼ねることがあります。
新潟県内には23の農業用ダムが稼働していますが、今回は柏崎市、刈羽村の水田3,590haを灌漑する3つのダム群である後谷(うしろだに)ダム、栃ヶ原(とちがはら)ダム、市野新田(いちのしんでん)ダムを通して農業用ダムについてご紹介します。

(2) 後谷ダム、栃ヶ原ダム、市野新田ダムの概要

後谷ダム、栃ヶ原ダム、市野新田ダムの3つのダムは、国営柏崎周辺農業水利事業で建設され、柏崎市、刈羽村の水田3,590haを灌漑する貯水施設です。

ア 国営事業の概要(柏崎土地改良区報告書 引用)

国営事業では、柏崎・刈羽地域の3,590ヘクタールの農業用水を確保するため、約5百億円の予算と23年間にわたる長期間の工事を行い、鯖石川・別山川・鵜川の3河川に農業用ダムを新設するとともに、安定的な農業用水を確保するため基幹的農業用施設である藤井堰(藤井頭首工)、善根堰(善根頭首工)の整備と、併せて幹線用水路の整備が完工しました。

事業は、平成元年度に国の直轄調査が始まり、平成9年7月に「国営柏崎周辺農業水利事業所」を開所し、平成13年10月に栃ヶ原ダムの仮排水トンネルに着工した後、平成14年9月に後谷ダムの付け替え道路工事、平成24年度に市野新田ダム工事に着手しました。

工事は順調に推移し、平成21年度に後谷ダム及び栃ヶ原ダムが竣工、残る市野新田ダムも令和2年度に竣工して3ダムすべてが完工しました。

完成した施設は主に柏崎土地改良区が管理しており、柏崎市・刈羽村とも連携して適切な管理に努めております。

後谷(うしろだに)ダム
  • 所在地:新潟県柏崎市西山町別山
  • 河川名:二級河川鯖石川水系後谷川
  • 形式:中心遮水ゾーン型フィルダム
  • 堤高:27.0メートル
  • 堤長:288.0メートル
  • 総貯水量:1,150,000立方メートル
  • 供用開始:平成22(2010)年8月
栃ケ原(とちがはら)ダム
  • 所在地:新潟県柏崎市高柳町栃ケ原
  • 河川名:二級河川鯖石川水系境川
  • 形式:重力式コンクリートダム
  • 堤高:52.7メートル
  • 堤長:152.5メートル
  • 総貯水量:2,470,000立方メートル
  • 供用開始:平成22(2010)年8月
市野新田(いちのしんでん)ダム
  • 所在地:新潟県柏崎市市野新田
  • 河川名:二級河川鵜川水系石橋川
  • 形式:傾斜遮水ゾーン型フィルダム
  • 堤高:26.7メートル
  • 堤長:199.0メートル
  • 総貯水量:1,687,000立方メートル
  • 供用開始:令和2(2020)年4月

イ 農業用ダムと渇水対応について

令和7年7月の新潟県の気象概況について(新潟地方気象台発表)

新潟地方気象台の7月の気象概況によると、『県内で気温を観測している全ての観測地点で、月平均気温が7月として最も高く、記録的な高温となりました。また、月降水量は県内で降水量を観測している 44 地点のうち41地点で7月として最も少なく、記録的な少雨となり、そのうち、22地点で統計開始以来の記録的な少雨となりました。』

令和7年度の後谷・栃ケ原・市野新田の3ダムからの配水状況について(柏崎土地改良区 報告書引用)

柏崎・刈羽地域は早場米の産地であり、農作業は融雪を待って始まり、特に極早生の「葉月みのり」は4月中旬から田植えが行われるため、事前に理事会で承認を得た配水計画に基づき、各頭首工の管理規程に従い気象状態などを考慮して、今年度は藤井堰(藤井頭首工)、善根堰(善根頭首工)ともに、4月11日から取水を開始しました。

本年5・6月 の農業用水は円滑に配水できましたが、今年7月の渇水状況はまさに災害規模の異常気象に遭遇しました。

柏崎観測所における過去の連続干天日数の記録は平成6年7月の27日間(超過確率124年)の記録がありますが、有効雨量5mm以上とすると6月23日(26mm)以降、約1か月間降雨がなく、確率では表現できないほどの干天が続きました。高温・干天による米質への影響が懸念されることから、例年より9日早く後谷ダムと栃ヶ原ダムは7月11日から、市野新田ダムは7月16日から放流を開始しました。

ダム計画の基準年と比較した今年度のダムからの放流形態は、ほぼ同じであるが放流量が多いことから、栃ヶ原ダムでは残放流可能日数(貯水量÷日放流量)が17.2日となり、8月中旬にはダムが枯渇する事態を想定して、貯水量を確保するため、配水の輪番制や取水口の調整などにより節水に努めました。

今年度の柏崎・刈羽地域の稲作は、残念ながらダムの水が届かない一部地域においては異常気象による干ばつ被害が発生しましたが、全体的には国営事業で建造したダムという素晴らしい施設のお陰で広域的な被害の発生が抑制され、無事、水稲の収穫ができました。この3つのダムは、農家だけではなく地域住民にとっても自慢の施設です。

ウ 農業用ダムを活用した洪水調整について

農業用ダムは、本来の灌漑用水供給に加え、近年の局所的集中豪雨による水害の頻発・激甚化を受けて、利水容量の一部を洪水調節に活用する取り組みが推進されています。

具体的には、大雨を予測した際にダムの利水貯水(農業、水道などの目的で利用するために、ダムの貯水池に貯めておく水)を事前に放流することで、急激な降水による水を貯めるための空き容量を確保する「事前放流」が行われ、下流河川の水位上昇を緩和し、浸水被害の軽減に貢献しています。

後谷ダム、栃ケ原ダム、市野新田ダムにおける取組み

後谷ダム、栃ケ原ダム、市野新田ダムの3つの農業用ダム(農林水産省所管)について洪水調節機能強化を推進するため、農林水産省、新潟県、柏崎市、柏崎土地改良区において治水協定を締結し、農業用水に支障のない範囲で、以下のような事前放流を実施し、洪水調節を行う取り組みを行っています。

・洪水予想時に水位低下を行い、一時的に洪水調整容量を確保
・降雨をダムに貯留して下流域の被害リスクを低減

先頭に戻る